新国税通則法による調査手続の先行的取組
2012/9/18 税制改正
来年1月から、改正された国税通則法が施行されます。
これにより、更正の請求期間の延長、処分の理由付記、税務調査手続きの見直しが行われます。
課税庁では、これに対応するため長時間の研修を行うとともに、今年10月1日からの税務調査において、事前通知と修正申告の勧奨の際の教示文の交付を先行的に行うそうです。
国税庁HP 「税務調査手続等の先行的取組の実施について」↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/nozeikankyo/senkotorikumi.htm
税務調査の手続きにおいては、実地調査の開始日時、調査場所、調査の目的、調査の対象となる税目、調査の対象となる期間、調査の対象となる帳簿書類その他の物件などを、納税義務者に対して事前に通知することが、法定されています。
また調査の終了に当たっては、国税に関する調査の結果、更正決定等を行うべきと認めた場合その調査結果の内容とその額を、納税義務者に説明するとされています。
10月1日から開始の調査に関しては、一部新制度に則った調査手続きを履行するとのことなので、この時点で税理士事務所も当局のひとつひとつの手続きの確認をすることが必要です。
また、納税者本人にも事前通知が必ず行われ、「事前通知事項の詳細」については、税理士事務所への説明のみでよいかどうかの確認も行われるようですので、この点も混乱がないように納税者への事前確認が必要と思われます。
税務署も見識を試されている
2012/9/07 法人税
今回も法人税調査事案です。
調査対象先企業は、節目の創立記念にあたり、従業員および取引先に記念品を贈呈しました。
この記念品の価額が高額で、現物給与に当たるのではないかという指摘です。
税務上のトラブルが発生しないように、処分価額が1万円を下回ることを確認していましたので、その資料を税務署に持参すると、今度は次の事例に該当するのではないかと指摘を受けました。
自由に選択できる永年勤続者表彰記念品(国税庁HP)↓
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/gensen/03/07.htm
これは記念品について、文字通り「自由に」これが欲しいと希望できる場合の取り扱いを、照会事例として掲げたものに過ぎません。
調査対象法人は、4種類の記念品からの選択という方法を採用していましたが、授与者の希望通りの品物を贈呈することはしていません。
税務署の指摘は、文理解釈上の技術的な誤りではなく、端的に日本語読解力の欠如のなせるわざです。
もともとの記念品が現物給与に該当するという指摘にしたところで、通達の本旨は、儀礼的な要素の強いものであるから課税しない、ただし歯止めはかけるというものだと思います(法基通36-22)。
1万円という金額も、まったく恣意的に通達レベルで定められたものにすぎず、「お上に逆らうと煩いから」、やむなく納税者も配慮しているのが実情ではないでしょうか。
「税務の常識は一般の非常識」の例は、枚挙に暇がありません。
何でもよいから指摘してみて、課税できれば結果オーライという姿勢が露骨に過ぎるように思います。税務署もその見識を試されていることを心すべきでしょう。
ゴルフ会員権の譲渡所得に関する変更
2012/8/27 所得税
預託金会員制ゴルフ会員権」の譲渡所得にかかる、今年6月の東京高裁判決を受けて、国税庁は従来の取得費の取り扱いを改める旨、HPで公開しています。
国税庁HP↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/golf/01.htm
預託金会員制ゴルフ会員権が会社更生法の適用により、預託金債権の全額を切り捨てられ「プレー権」のみのゴルフ会員権となったとき、これを売却した際に取得費として認識できるのは、「プレー権のみのゴルフ会員権の時価相当額」とされてきました。
HPでは今回の東京高裁判決を受けて、預託金会員制ゴルフ会員権を取得したときのプレー権部分に相当する、もともとの取得価額を「取得費」とすると改めています。
ただし、プレー権につき以下のような条件が認められ、更生手続等の前後で変更なく存続し、同一性を有していると認められる場合の取扱いであることが前提です。
①更生計画等の内容から、プレー権が会員の選択等にかかわらず、更生手続等の前後で変更がなく存続することが明示的に定められている
②更生手続等によりプレー権のみのゴルフ会員権となるときに、新たに入会金の支払がなく、かつ年会費等納入義務等を約束する新たな入会手続が執られていない
なおこの取扱いの変更は遡及適用でき、取扱いの変更を知った日の翌日から2ヵ月以内に請求をすることにより、納め過ぎた所得税の還付を受けることができます。
税務調査の顛末
2012/8/17 法人税
法人税調査で、役員所有土地への法人地代復活を、「利益調整なので否認したい」と税務署が主張してきた件の顛末です。
地代支払い復活について、税務署側の主張が誤りであることを、しぶしぶ認めたのですが、地代の額が「適正ではないと感じる」ので、否認したいと主張してきました。
価額が適正でないという根拠も薄弱なまま、「何でもいいから、なんとかこちらの顔を立てられないか」という言いぐさです。
地代の額を改めて計算すると、いわゆる「通常の地代」の額に該当します。地代の額の根拠を示すと、すごすごと主張を撤回しました。
高齢の、濡れ落ち葉のような調査官の物言いならば、哀れも感じるところですが、まだ年齢も若く、現場の税務職員の模範として自らを律すべき統括官の、これが反応です。
現場の士気も落ちるでしょう。
怒りを通り越して、税務行政の行く末を案じさせるような一件でした。そして、ひょっとすると、このような滑稽な主張を繰り返すのは、それにおとなしく屈している税理士の存在が、原因としてあるのではないか、とも考えました。
消費税転嫁対策用の法律創設へ
2012/8/01 消費税
中小企業などが、消費税率引き上げ時に価格に転嫁ができない、いわゆる転嫁問題は経営のかじ取りを危うくしかねないため、経営者が頭を悩ませるところです。そこで政府は、消費税法とは別に「転嫁対策専用の法律」を創設する方針です。
平成元年消費税導入時に消費税法附則に盛り込まれた「独禁法適用除外規定」と同様の規定を設けるほか、取引の中で消費税分を転嫁させないような行為を「違法」であると新法に明記する方針です。
まず消費税分の価格転嫁方法や表示方法に関するカルテルは、これを独禁法の適用除外とするという、平成元年と同様のカルテル除外規定を設けます。
そのうえで、実際に下請けいじめのような実態がないかどうかを調査する権限を、各省庁に設け、違反に対して実効あるペナルティを課せるように法の整備を行うそうです。
政府としては消費税法とは別途に法律を設けることで、転嫁対策に強い姿勢で臨むことをアピールしたいところです。
税務署は空洞化しているのではないか
2012/7/26 法人税
前回ご紹介した、法人の支払地代をめぐる税務署の反応の続きです。
統括官が税務署に来るよう連絡してきたので、担当者に税務署に向かわせました。
担当者の報告では、支払地代を復活したのは「利益調整だ」と統括官は主張して譲らないのだそうです。
法人取引である以上、適正地代支払いを基準として、課税関係の判断をするべきだと、いくら主張しても理解できないといいます。40代の若い統括官だったというのですが。
そういえば別の調査で、不動産管理会社がマンション所有者から受け取る「管理料」が、どのような役務の対価なのかと若い統括官に真顔で聞かれて、彼の真意を測りかねたことを思い出しました。本当に管理料が何かを知らなかったようです。 これも2カ月ほど前の出来事です。
団塊の世代が退職したあとの税務署は、「空洞化」しているのではないでしょうか。
「これを喋ると程度が知れる」「のちのち組織全体が恥ずかしい思いをする」という判断は現場で恥をかいて、先輩にしかられて身に付く知恵だと思います。
今回のケースも、つまらない指摘をした担当調査官が署に帰って統括官にしかられて、恥をかくべき事項のはずです。
猛省を促したいと思います。
税務署員の質の向上を望む
2012/7/23 法人税
税務調査の立会をしていて気がつくことのひとつは、調査官の年齢が非常に低くなっていること。経験も少なく知識も充分ではない調査官が、ひとりで調査の現場にやってくることです。
顧問先企業も我々税理士も、忙しい時間をようやく割いて調査に協力しているのですから、手際よく、納税者に負担をかけない調査を望みたいところです。
しかし、調査官から次のような指摘を受けると、怒る気力も失せてしまいます。
会社「甲」は役員「A」所有の土地に会社所有の建物を有し、かつてはAに地代を払っていました。ところが業績の悪化により地代を支払う余裕もなくなり、地代支払いをストップする時期がしばらく続きました。
調査対象年の最終期に、ようやく業績が好転しだしたため地代の支払いを再開したところ、これを法人税の調査において調査官は、「利益調整であるため否認したい」と主張します。
税務署および調査官の名誉のために名は伏せますが、先週の調査でそのように主張し今日に至るまで主張の撤回がないということは、統括官クラスも同様に考えているということだと思います。
法人はあくまでも経済合理性を追求する主体であり、税務上の解釈もそこを出発点とします。使用貸借の関係が発生しているならば、あるいはそのような契約があるならば、それは「仮装契約」とみなして税務上の判断を行うはずです。あくまでも、適正地代の収受が行われるべし、というところから議論はスタートします。
過大な地代支払いがあった場合には、役員給与の指摘が検討されたり、逆に法人地主が受取地代を収受していない場合には、受取地代の認定課税がされたり、というのは以上のような前提で構成される理屈です。
むろんAの個人所得の問題も発生しますが、これはあくまでも別問題。また借地権利金収受の慣行のない地域ですので使用貸借に伴う煩わしい税務の問題も発生しません。
税務署員の質の向上を切に望みます。納税者が税務署員の不勉強に振り回されることがあってはならないと思います。
金投資に対する考え方
2012/7/11 相続税
今朝(7月11日付)の日経新聞に、金投資の特集記事が載っていました。
記事によると、調査機関のゴールド・カウンシルの試算では、株式55%、債権25%を中心とした標準的なポートフォリオに、金を4.4%組み入れると、組み入れない場合に比べて、利益の増加、損失の抑制効果のいずれもが認められたそうです。
かつて金を扱っている方から、金で利益を上げるのは至難の業だ、金をもつのは「趣味」の話と考えた方がよい、とお話しを聞いたことがあります。
日経の記事にもあるように、有事に強みを発揮する金は、平時には魅力のうすい商品になります。 金は有事への備えとして「買ったら忘れる」のが基本との考え方もあるという指摘もあります。
一方、国内投資家にとって最大のリスクのひとつが、円の急落とインフレというシナリオであると言われています。その意味で、金投資の重要性は増しているのかもしれません。
短期の利益を決して求めず、あくまでも急にお金が必要になったときまでに動かさないという覚悟を持てるか。それだけの余裕資金なのか、という見極めが金投資の勘どころでしょう。
メディカル・サービス法人との取引の適正性
2012/6/13 法人税
医療法人の理事とMS法人の役員との兼務について、厚労省から通知が出ていることは、既報のとおりです。
今後、医療法人成りの手続等で、神経を使わなければならないところだと思います。
医療法人とMS法人との商取引の適正性についても、通知文書は言及していますので、今一度、契約内容の他社比較などを行ってみることが必要でしょう。
ところで契約内容の適正性については、興味深い判決が出ていますのでご紹介します。
医療法人が、コンタクトレンズ販売会社であるMS法人に対して支払った広告宣伝費について、東京地裁は広告宣伝費が、「寄附金」に該当する判断を下しました。
眼科診療所を経営する医療法人が、関連会社の新聞折込チラシ等の宣伝費用について、費用を一部負担していた事案で、その折込チラシ等について医療法人の名称等の記載がない等の理由から、医療法人の負担費用を税務署が寄附金と認定した更正処分を適法と判断しています。
MS法人の経費ではあっても、医療法人が負担すべき筋のものではないという判断です。
同一ビルに医療法人とMS法人が同居している場合など、MS法人の宣伝が事実上医療法人の宣伝の「効果」を見込める場合であっても、医療法人の広告宣伝という体裁を取らなければ医療法人の経費性は認められないと考えなければなりません。
厳しい判断だと思います。
消費税増税以外の抜本改革は先送りか
2012/6/07 税制改正
消費税率引き上げ法案に関する民主党と自民党との修正協議が、今月15日までに合意をめざす方向で進められています。
民主党が、低所得者層向け対策として打ち出している、「給付付き税額控除」制度に対して自民党は反対していることから、15日までの合意、21日国会会期末までの衆議院可決は、微妙な情勢です。
自民党からは、会期末まで残り僅かなことから、かりに消費税改正について合意をみたとしても、消費税以外の改正項目である所得税の最高税率引き上げや、相続税の基礎控除引き下げなどの税制抜本改革項目は、今年末の税制改正論議まで先送りするという見方が強まっているとのことです。
相続税改正については、自民党が強く反発していることから、かりに年末の論議に先送りされても、平成25年度税制改正に盛り込まれるかどうかは流動的です。相続税増税には所得間格差を埋め、消費増税を行うための環境整備をするという意味合いもあるのでしょうから、消費増税の決議のタイミングによっては、いっそう相続税制の改正のゆくえは、読めなくなると思います。