平成27年 類似業種比準価額の公表(続)
2015/6/17 相続税
昨日に引き続き、平成27年 類似業種比準価額の公表について
公表数字は国税庁の下記サイトをご覧ください。
↓ ↓ ↓
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/hyoka/150601/index.htm
内容をよく見てみますと、業種による程度の差はありますが、昨年12月の値に比較すると株価Aは全般に引き下げられており、平成25年平均と平成26年平均とを比較すると、さほど大きな変動はない、というのが全体のトレンドのようです。
製造業(10)H25年平均 260 → H26年平均 222
卸売業(72)H25年平均 179 → H26年平均 199
小売業(84)H25年平均 278 → H26年平均 274
不動産(97)H25年平均 290 → H26年平均 281
その他(110)H25年平均 446 → H26年平均 248
左側のH25年平均値は今年春に公表された数字、右側のH26年平均値は今年、標本会社を入れ替えて6月15日に公表した数字です。
平均値の変動という点に注目すると、「その他の産業」の下落が特に目立ちます。
平成27年類似業種比準価額 公表される
2015/6/16 医療法人・医療関係
平成27年1月、2月の類似業種比準価額がようやく公表されました。
医療法人が適用される「その他の産業」の値が標本会社の入れ替えによってどのように変わるのか、非常に興味深いところでしたが、大幅な評価の引き下げという、思わぬ結論に達しました。
今年春に公表された平成26年12月のA値は591でしたが、標本会社の入れ替えによって、平成26年のA値平均は248と半額以下まで下がっています。
出資持分のある医療法人にとって、事業承継対策のとりやすい環境が整ったことになります。
標本会社の入れ替えによって、出資評価の基準が大幅に変更されることは予測可能性を阻害する要因として批判されてきましたが、過去2年間の極端な高値と、今回公表値との落差を見ると、特にその思いを強くします。
財産債務調書の提出義務者
2015/2/17 相続税
平成27年度税制改正に盛り込まれた「財産債務調書」の提出義務について、その解釈にばらつきがありましたが、以下のように解するのが正解だそうです。
1. その年分の所得金額が2千万円超であること
という条件に当てはまり、
「なおかつ」
下記2「または」3の条件に当てはまる人は提出義務者である。
2. その年12 月31 日において有する財産価額の合計額が3億円以上であること
3. 同日において有する国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の対象資産の価額の合計額が1億円以上であること(つまり有価証券等の保有額が1億円以上であること)
従来は、所得2千万円超である人は「財産債務明細書」を提出することになっていましたが、平成27年度分の確定申告(来年3月申告期限分)から「財産債務調書」の提出に変わり、提出しない場合には所得税・相続税の加算税にペナルティが付くことになります。
その提出義務者が、従来の2千万円超の「高所得者」ではなく、2千万円超の高所得者であり、なおかつ上記2または3の条件に合致する「資産家」に絞られることになります。
提出義務者に制限を加えたうえで、提出しない者へのペナルティ(提出した者への軽減も)を課して、手続きを厳格化するという改正です。
住宅取得資金贈与と個人間取引
2015/2/06 相続税
平成27年度税制改正大綱で、直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税措置が、平成31年6月まで延長され、拡充されています。
大綱では消費税率引き上げ前の駆け込み需要や、引き上げ後の受注落ち込みを抑制する目的で、引き上げ前後の期間(平成28年10月~平成29年9月)には、3千万円の非課税枠を設けるなど、大胆な措置を講じています。
さて、大綱では消費税率が10%である場合と「それ以外の場合」とに分けて、時系列の非課税限度額一覧表を掲げています。
この「それ以外の場合」に消費税率引き上げの平成29年4月以降の時期も含まれることが何を意味するのか、一目では判然としません。
この「10%が適用される以外の場合」とは中古住宅の個人間売買を想定しているのだそうです。売主が「事業者」でない個人から住宅を取得した場合、消費税10%適用外となるので、このようなケースにまで大幅な非課税枠を設ける必要はないとの判断のようです。
さて問題は、この法の趣旨を理解せずに3千万円の非課税枠を前提に、親が取得資金を負担してしまった場合のことです。「良質な住宅用家屋」を個人間で取引した場合には、1200万円の非課税枠しか使えず、差額の1800万円に贈与税がかかることになります。
十分な注意が必要とされるところです。
渡る世間に税制改正 (その八)
2015/1/24 相続税
勇は5人姉妹のうち誰かが、義父と喜んで同居すると言い出すとは思えなかったし、断られると分かって義父が相談を持ちかけているとも考えられなかった。大吉のプライドの高さはよく知っているからだ。
そうすると、最近、大吉の店に泊りがけで仕事をすることもある日向子の顔が、突如頭に浮かんできた。
純粋培養で育てられて、自分の人生を打算抜きで真っ直ぐにしか見ることのできない、あの日向子に、まさか大吉を籠絡するような企みが浮かぶはずはない。勇はそう思うのだったが、どうしても日向子の顔が頭から離れないのだ。
いや、待てよ。日向子の母親の長子はちゃっかり者で、こういう「利に聡い」話に絡んできそうだ。これまでの物語展開からすると、ちょうど彼女に出番が回って来る頃だ。そう言えば、いかにもそのような気がする。
もうこの物語に誰が登場して、自分が誰なのかも判然としなくなってきた。頭の中が混沌とした小宇宙のように渦巻いている小島勇の正月であった。
(完)
というわけで、筆者にはこれ以上の物語を続ける「堪え性」が無いのですが、どうも、このような愉快な想像をかき立てる、湧き立つような気分が、去年の暮れあたり財務省の一室に横溢していたのではないか、と思うのです。
「児玉くん、この結婚資金300万てあたり、冴えてるねー。」
「先輩、茶化さないでくださいよ。出来るだけ資金使途はバラすようにっていうお達しでしたから、ちゃんと国会図書館で統計を見てきたんですから。」
「いや、悪い悪い。お勤めご苦労様です。」
なんていう明るい会話が、霞が関の煌々と明かりの灯る執務室で、展開されていたのだと思います。いや、そうに違いありません。
渡る世間に税制改正 (その七)
2015/1/20 相続税
大吉の表情に一気に困惑の色が広がった。
孫の日向子はどうしようもなく可愛い。しかし、あの子だけを特別扱いするつもりなど毛頭なかった。ましてや5人姉妹の娘たちの人間関係がようやく落ち着きかけた今になって、こんな話を娘たちに出来る道理はなかったからだ。
それにしても、まだ少年のあどけなさを時折見せる高木に、これほどの説得力と威圧感とを持たせてしまう相続税の仕組みというのは、冗談ではなく魔界の妖力を帯びているのではないか、と背筋の寒くなる思いもする大吉であった。
そういう経緯があって、大吉はこのたぐいの話に動じない五月に、二世帯住宅の話があることを話す気持ちになったのだ。もちろんそこに同居するのが日向子かもしれず、その場合には遺言でもって日向子を相続人に加えなければならない、などということはおくびにも出さなかった。
「営業の高木くんが、俺の体の自由が効かなくなった時のことなんかを心配してな。誰か同居してくれる人がいれば安心でしょう、なんてことを言うんだよ。」
娘たちの誰一人として、すすんで同居すると言いだすはずがないと大吉なりに考えたからこそ、「じゃあ、板前修行の日向子がいいんじゃない」と娘たちの方から言ってくれるかもしれない、そういう目論見もあった。
相続税対策の営業戦略とは気がつかない五月は、誰が父さんの身の回りの世話をすることになるのかしら、という具合に、勇に相談をしてきた。これを聞いた勇は自分自身の生前贈与のドタバタもあったので、これは怪しいとピンときたのだ。
(続く)
渡る世間に税制改正 (その六)
2015/1/17 相続税
「いずれ日向子さんがこの店を引き継げば、大将も肩の荷が降りますよね。そのうえ日向子さんがこの家で生活するようになったら、大将もどれだけ心強いことでしょう。日向子さんが将来結婚してご夫婦で同居するようになると、それはもう賑やかでしょうね。」
妻に先立たれて以来、ずっと張り詰めた気持ちでいた大吉にとって、孫の日向子が同居してくれるという話は、まるで心の奥の氷塊をじんわりと溶かしてくれるような、甘美な効果をもたらした。
高木は畳み掛けるように続ける。
「そこで、二世帯住宅のご提案なんです。平成26年から税制上の規制が緩くなって、外階段で繋がっている様なほとんど別生活の建物でも税制の優遇が効くようになり、なんと居宅部分の土地の評価が80%も減額されてしまうんです。そのうえ、事業を営んでいる場合には、その事業を引き継ぐひとが相続されたら、その事業用部分の土地評価についても80%の減額が効きます。大将は土地評価の値上がりを気にしておられたから、80%オフは夢のような朗報ですよね。」
もう騙されてはいけないと、心に決めたはずの大吉の気持ちは、80%オフの一言で大きく揺り動かされた。
高木はここが攻めどきだと見極めたらしく、深呼吸をして声のトーンを変えた。
「そう、夢のような話なんです。しかし、ひとつだけ越えなければならないハードルがあります。一緒に同居してくれたり、事業を引き継いでくれたりするひとは、法定相続人である必要はありません。大将の親族であればそれで問題はない訳です。しかし日向子さんはお孫さんですから、親族ではあってもこのままでは相続財産を受け取ることはできません。だからひと工夫が必要なんです。」
高木は声の調子を一段低くして、大吉に重大な内緒の話をするように、ささやきかけるように続けた。
「大将が遺言書をしたためて、この土地を日向子さんに遺贈する、と指示すればいいんです。そうすれば日向子さんは堂々と相続財産を受け取ることができます。」
(続く)
渡る世間に税制改正 (その五)
2015/1/14 相続税
岡倉大吉の店で板前見習として働く壮太の友達がハウスメーカーの営業マンで、その彼から二世帯住宅を建てないかという提案があり、日に三度は大吉の携帯に営業電話がかかってくるというのだ。
大吉は脱サラ後、退職金をはたいて自宅の一部を料亭として改造し、料理人として第二の人生を送っている。見ようによっては、豊かな人生であると言えるかもしれない。しかし馴染み客だけを相手にする商売だけに、経済的に豊かであるとは必ずしも言えない身分である。当然、相続税の心配など自分には関係ないと大吉は思い込んでいた。
ところが、2020年に東京オリンピックが開催されると決まったあたりから周りの様子が変わり始めたのだ。地価がじわじわと上昇し始め、狙いすましたかのようにその年の2年後には相続税の大改正があった。料亭の収入から蓄えができ始めたのも、時期が悪かったのかもしれない。
相続税がいかに悪意に満ちた仕組みで、どれほど役人の悪知恵を結集してできあがった災厄であるかという話を嫌というほど聞かされ、誘われるままに生前贈与の大金を孫の口座に振り込んでしまった。
もう騙されないぞと心に決めた大吉であったが、自宅兼料亭のある土地の価格がとどまる気配もなく上がり続けるのがどうにも気になっていた。そこへ壮太の友達でハウスメーカーの営業マンである高木から話があったのだ。
「皆さん、ゆったり構えすぎるんです。早く手を打っておけば、どうってことないのに、いざ重たい腰を上げる段になって、もう手が付けられなくなっているケースばっかりなんですから。」
孫ほどの歳の高木が熱心に話すのを、大吉はさえぎることができなかった。もう少し話を聞いてやろうと、優しい目でうなずいてしまったのがいけなかった。高木は「これは脈がある」と踏んだのだ。
(続く)
渡る世間に税制改正 (その四)
2015/1/12 相続税
お金を出してしまったことはしょうがない、いつまでも根に持つような小さな人間ではないつもりだ。しかし、と居間に一人残されて手酌のビールを飲みながら小島勇は思うのだった。岡倉の義父さんは、日向子のために預けた金が何の役割も果たさず、挙げ句の果てに税金で大半をお上に召し上げられるのだから、やりきれない気持ちで一杯だったろう。
愛の場合は、まったく驚天動地の破局でもって予定が狂ったので、これが天命と思えば諦めもつく。ウイスキー造りに血道をあげるような浮ついた男に愛を取られなくて良かった、とさえ思う。しかし、日向子の場合には、岡倉の義父さんが一度に大金を動かす必要はなかったと後から人に聞かされていたから、無駄金になりそうだとわかった時の、裏切られた思いはひとしおであったろう。
たとえば、医学部入学が決まって入学金が必要になった段階で、孫のためにお金を使うことに税金はかからないそうなのだ。初めからそう聞かされていれば、信託銀行の言うがままに大金を投じることもなかったろう。
最近でこそ体調が優れない様子の義父だが、以前はちょっとした病気ぐらい平気で克服し、見違えるように体格も良くなってリニューアルされるような体質の義父なので、そもそも相続税対策など慌ててやる必要もなかったのだ。今から冷静になって考えると、義父の場合、全てがトンチンカンな勘違いがもとで大金を動かしていたと言えなくもなかった。
勇がそう思うのも、最近妻の五月から気になる話を聞かされていたからだ。
(続く)
渡る世間に税制改正(その三)
2015/1/08 相続税
「安菱信託の太田くんも、ずいぶん気にしていてな。結婚を間近に控えたお前に、とっておきのプレゼントができると言って用意してきたのが、平成27年度税制改正で導入された結婚・子育て支援資金贈与の非課税措置だったんだ。お前もあの時には有頂天だったものだから、信託銀行と契約をして結婚から出産、子育てまで、何でも使える資金をお前の口座に振り込んだ。それが、計画通りいかなくなったものだから、太田くんも慌てているんだよ。」
状況説明を端的に、よどみのない長ゼリフでできるというのが小島勇の特技でもあった。
はたで聞いていた、愛の弟、眞が坊主頭をかきむしりながらおもむろに口を開いた。
「父さんも、愛姉ちゃんの気持ちを少しは考えてみろよ。信託銀行の太田だか何だか知らないけれど、どうしてそいつに、うちの財産やら結婚やらに首を突っ込まれなけりゃいけないんだ。太田っていう人間の考えていることくらい、俺には全部わかるよ。姉ちゃんがこのまま結婚もしないで、例えば50歳になるとするだろ。信託銀行に預けた金にはぜーんぶ贈与税がかかってくるんだ。そうすりゃ提案をした手前、信託銀行の信用も丸潰れさ。だから、こういう時に備えて、見合い写真を山ほど抱えているって言うぜ。」
やや鼻にかかった声で、これだけのことを一気に言い終えた眞は、ごちそうさまと小さく言ったまま、居間から出て行ってしまった。
勇は一層気鬱になるばかりだった。眞の言うとおりだ。娘に幸せになってもらいたいという気持ちには嘘がないつもりだが、信託銀行に預けた金に、贈与税が課かってしまうのはどうにも我慢がならなかったのだ。
かりにそのようになったとして、許せないのは信託銀行の太田くんではなく、人の心をどのようにでもコントロールできると考えている「お上」であり、それに手もなく操られてしまった自分自身の不甲斐なさだった。
(続く)