医療機関の「高額投資」にかかる消費税への措置
2012/10/19 医療法人・医療関係
消費税率引き上げによって経営基盤に大きな影響を受けるのは、税率引き上げ相当分を価格に転嫁できない立場の事業者です。
「値決めは経営である」という稲盛和夫さんの言葉を肝に銘じて、価格戦略によって税率引き上げに対処するのが王道でしょう。しかし、医療機関における社会保険診療報酬は、非課税の公定価格であるため、身を守るための「値決め」をすることができません。
かつて消費税率が5%に引き上げられたときには、診療報酬改訂時に税率引き上げ分が加味されました。 しかし、この診療報酬改定が医療機関の規模に関わらず一律な手当であったことから、大規模医療機関を中心に不満の声があげられました。
そこで、今回の税率引き上げに当たって、『社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律』において、この点に配慮する旨の規定が置かれています。
財務省HP↓
http://www.mof.go.jp/about_mof/bills/180diet/sh20120330g.htm#betu
ここで、注目すべき点は、
「医療機関等における高額の投資に係る消費税の負担に関し、新たに一定の基準に該当するものに対し区分して措置を講ずることを検討し」 (第7条1項ヘ)
の文言です。
高額の投資に対しては、診療報酬において一定の上乗せを行うことが検討されるということを意味しています。
具体的な診療報酬改定によっては医療機関の投資計画にも影響を及ぼす内容です。
事業承継税制の改正議論も
2012/10/02 相続税
平成25年度税制改正では、事業承継税制の見直しが論点となるようです。
平成20年に導入されたものの、その要件が厳しすぎることで、事業承継税制は敬遠されてきました。実際この3年間で、相続税に関する適用累計数は、わずか348件にとどまっています。
財務省もこの状態を放置することで、制度そのものの存続が危ぶまれるとの認識から、来年度税制改正の論点に取り込む方針のようです。
ちなみに現在、経済産業省、中小企業庁から出されている要望は、以下の項目です。
①親族外承継も対象にすべき
②「役員」退任要件を緩和して、「代表者」退任要件へ
③雇用8割以上継続要件を、5年継続ではなく5年間の平均へ
④5年経過後に、猶予額を全額免除
⑤会社事業資金の担保となっている不動産も対象に
このうち財務省は③の5年間雇用要件について、問題意識を持っており、何らかの改正が行われる可能性があります。
弁護士会役員の経費性判断で逆転判決
2012/9/26 所得税
9月19日東京高裁で、弁護士会の役員が出席した懇親会の経費性につき、注目すべき判決が下されました。
昨年の東京地裁判決では、弁護士会役員として出席した懇親会について、その弁護士の事業所得計算上、いっさい経費性を認めないという判断を下していました。
今回の高裁判決では、弁護士会役員としての活動であっても、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係しているとして、経費性を認める判断を下しています。
つまり納税者の逆転勝訴判決です。
裁判所は、弁護士会の公式行事後の懇親会であって、その費用の額が過大でないなどの4類型を挙げて、経費性を認めてよい旨を判示しています。
今回の判決が確定すれば、他の「士業」の経費性の判断にも変更が生じます。
今後の課税庁の出方が注目されるところです。
アークレイ マーケティング様訪問
2012/9/20 その他
臨床検査・医療機器の製造、販売のトップブランドであるアークレイ・グループのアークレイ マーケティング株式会社を、弊事務所職員と訪問しました。
同社会議室での情報交換会では、平成24年度診療報酬改定における、「外来迅速検体検査加算」についてのご説明を受け、同社の糖尿病検査機器などが、開業医の先生方の収益構造改善に対して、一層貢献されることを教えて頂きました。
また、糖尿病検査として用いられる指標が、精緻ではあるけれども日本国内でしか通用しないJDC値のため、日本のガラパゴス化が起こっており、これを改めるため、ようやく国際標準化がすすめられているというお話しは、驚きでした。
私ども事務所からは、消費税率改定に当たって、リース料にかかる消費税がどのように取り扱われるかという話題と、医療業における消費税「損税」をめぐる動きなどについて報告させていただきました。
長時間お付き合いいただきました、アークレイの西村様、入江様、近藤様、本当に有り難うございました。
今後の情報交換会も、どうぞよろしくお願いいたします。
新国税通則法による調査手続の先行的取組
2012/9/18 税制改正
来年1月から、改正された国税通則法が施行されます。
これにより、更正の請求期間の延長、処分の理由付記、税務調査手続きの見直しが行われます。
課税庁では、これに対応するため長時間の研修を行うとともに、今年10月1日からの税務調査において、事前通知と修正申告の勧奨の際の教示文の交付を先行的に行うそうです。
国税庁HP 「税務調査手続等の先行的取組の実施について」↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/nozeikankyo/senkotorikumi.htm
税務調査の手続きにおいては、実地調査の開始日時、調査場所、調査の目的、調査の対象となる税目、調査の対象となる期間、調査の対象となる帳簿書類その他の物件などを、納税義務者に対して事前に通知することが、法定されています。
また調査の終了に当たっては、国税に関する調査の結果、更正決定等を行うべきと認めた場合その調査結果の内容とその額を、納税義務者に説明するとされています。
10月1日から開始の調査に関しては、一部新制度に則った調査手続きを履行するとのことなので、この時点で税理士事務所も当局のひとつひとつの手続きの確認をすることが必要です。
また、納税者本人にも事前通知が必ず行われ、「事前通知事項の詳細」については、税理士事務所への説明のみでよいかどうかの確認も行われるようですので、この点も混乱がないように納税者への事前確認が必要と思われます。
税務署も見識を試されている
2012/9/07 法人税
今回も法人税調査事案です。
調査対象先企業は、節目の創立記念にあたり、従業員および取引先に記念品を贈呈しました。
この記念品の価額が高額で、現物給与に当たるのではないかという指摘です。
税務上のトラブルが発生しないように、処分価額が1万円を下回ることを確認していましたので、その資料を税務署に持参すると、今度は次の事例に該当するのではないかと指摘を受けました。
自由に選択できる永年勤続者表彰記念品(国税庁HP)↓
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/gensen/03/07.htm
これは記念品について、文字通り「自由に」これが欲しいと希望できる場合の取り扱いを、照会事例として掲げたものに過ぎません。
調査対象法人は、4種類の記念品からの選択という方法を採用していましたが、授与者の希望通りの品物を贈呈することはしていません。
税務署の指摘は、文理解釈上の技術的な誤りではなく、端的に日本語読解力の欠如のなせるわざです。
もともとの記念品が現物給与に該当するという指摘にしたところで、通達の本旨は、儀礼的な要素の強いものであるから課税しない、ただし歯止めはかけるというものだと思います(法基通36-22)。
1万円という金額も、まったく恣意的に通達レベルで定められたものにすぎず、「お上に逆らうと煩いから」、やむなく納税者も配慮しているのが実情ではないでしょうか。
「税務の常識は一般の非常識」の例は、枚挙に暇がありません。
何でもよいから指摘してみて、課税できれば結果オーライという姿勢が露骨に過ぎるように思います。税務署もその見識を試されていることを心すべきでしょう。
ゴルフ会員権の譲渡所得に関する変更
2012/8/27 所得税
預託金会員制ゴルフ会員権」の譲渡所得にかかる、今年6月の東京高裁判決を受けて、国税庁は従来の取得費の取り扱いを改める旨、HPで公開しています。
国税庁HP↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/golf/01.htm
預託金会員制ゴルフ会員権が会社更生法の適用により、預託金債権の全額を切り捨てられ「プレー権」のみのゴルフ会員権となったとき、これを売却した際に取得費として認識できるのは、「プレー権のみのゴルフ会員権の時価相当額」とされてきました。
HPでは今回の東京高裁判決を受けて、預託金会員制ゴルフ会員権を取得したときのプレー権部分に相当する、もともとの取得価額を「取得費」とすると改めています。
ただし、プレー権につき以下のような条件が認められ、更生手続等の前後で変更なく存続し、同一性を有していると認められる場合の取扱いであることが前提です。
①更生計画等の内容から、プレー権が会員の選択等にかかわらず、更生手続等の前後で変更がなく存続することが明示的に定められている
②更生手続等によりプレー権のみのゴルフ会員権となるときに、新たに入会金の支払がなく、かつ年会費等納入義務等を約束する新たな入会手続が執られていない
なおこの取扱いの変更は遡及適用でき、取扱いの変更を知った日の翌日から2ヵ月以内に請求をすることにより、納め過ぎた所得税の還付を受けることができます。
税務調査の顛末
2012/8/17 法人税
法人税調査で、役員所有土地への法人地代復活を、「利益調整なので否認したい」と税務署が主張してきた件の顛末です。
地代支払い復活について、税務署側の主張が誤りであることを、しぶしぶ認めたのですが、地代の額が「適正ではないと感じる」ので、否認したいと主張してきました。
価額が適正でないという根拠も薄弱なまま、「何でもいいから、なんとかこちらの顔を立てられないか」という言いぐさです。
地代の額を改めて計算すると、いわゆる「通常の地代」の額に該当します。地代の額の根拠を示すと、すごすごと主張を撤回しました。
高齢の、濡れ落ち葉のような調査官の物言いならば、哀れも感じるところですが、まだ年齢も若く、現場の税務職員の模範として自らを律すべき統括官の、これが反応です。
現場の士気も落ちるでしょう。
怒りを通り越して、税務行政の行く末を案じさせるような一件でした。そして、ひょっとすると、このような滑稽な主張を繰り返すのは、それにおとなしく屈している税理士の存在が、原因としてあるのではないか、とも考えました。
消費税転嫁対策用の法律創設へ
2012/8/01 消費税
中小企業などが、消費税率引き上げ時に価格に転嫁ができない、いわゆる転嫁問題は経営のかじ取りを危うくしかねないため、経営者が頭を悩ませるところです。そこで政府は、消費税法とは別に「転嫁対策専用の法律」を創設する方針です。
平成元年消費税導入時に消費税法附則に盛り込まれた「独禁法適用除外規定」と同様の規定を設けるほか、取引の中で消費税分を転嫁させないような行為を「違法」であると新法に明記する方針です。
まず消費税分の価格転嫁方法や表示方法に関するカルテルは、これを独禁法の適用除外とするという、平成元年と同様のカルテル除外規定を設けます。
そのうえで、実際に下請けいじめのような実態がないかどうかを調査する権限を、各省庁に設け、違反に対して実効あるペナルティを課せるように法の整備を行うそうです。
政府としては消費税法とは別途に法律を設けることで、転嫁対策に強い姿勢で臨むことをアピールしたいところです。
税務署は空洞化しているのではないか
2012/7/26 法人税
前回ご紹介した、法人の支払地代をめぐる税務署の反応の続きです。
統括官が税務署に来るよう連絡してきたので、担当者に税務署に向かわせました。
担当者の報告では、支払地代を復活したのは「利益調整だ」と統括官は主張して譲らないのだそうです。
法人取引である以上、適正地代支払いを基準として、課税関係の判断をするべきだと、いくら主張しても理解できないといいます。40代の若い統括官だったというのですが。
そういえば別の調査で、不動産管理会社がマンション所有者から受け取る「管理料」が、どのような役務の対価なのかと若い統括官に真顔で聞かれて、彼の真意を測りかねたことを思い出しました。本当に管理料が何かを知らなかったようです。 これも2カ月ほど前の出来事です。
団塊の世代が退職したあとの税務署は、「空洞化」しているのではないでしょうか。
「これを喋ると程度が知れる」「のちのち組織全体が恥ずかしい思いをする」という判断は現場で恥をかいて、先輩にしかられて身に付く知恵だと思います。
今回のケースも、つまらない指摘をした担当調査官が署に帰って統括官にしかられて、恥をかくべき事項のはずです。
猛省を促したいと思います。